■ 灯りの塔の家 [ 明と暗・技の伝承として ]
空間移動の期待感
建設場所は、北陸・富山県。この家は瞬く間に宅地化しつつある都市近郊に建つ。敷地は数年前に造成され中央に道路を挟んだ10区画のうちのほぼ中程の一画。初めて敷地を訪れたときは、端に2軒の建て売り住宅が建っていたぐらいだったのが、案の定この家の竣工が最も遅く、それまでに隣近所が建て売り住宅で埋め尽くされてしまった。当然、両隣の家は境界線ギリギリに迫っている状態である。人は誰しも、暮らすならば良い環境に住みたいと願う。空気・眺望が良いことは然り、しかも山の手が良いと思うに違いない。しかし実際は思うようにはいかないもの。住環境よりもこれまで培ってきた地域環境や「人情」を重んじるほうが、暮らしやすいと思うからおもしろい。実際に、この家の建主もそれを選んだ。そうとなれば、いわば悪条件の中で「光」と「空間」の関係性を追究することに努めなければならない。西と東は隣家で封鎖されていて、しかも北には将来的に宅地造成されるであろう空地が隣接しているため採光環境としてはそれほど望めない。幸いにも道路側が南。そこで外部空間として豊富な道路側を中心に、その関係性を考えた。 この地は、冬は年によっては雪が多い。近くには、昔ながらの旧市街が残っており、その魅力を合わせ持った雪国らしい現代和風で存在感のある、技の伝承としての建物と位置づけた。外観は屋根と外壁を、新素材であるガルバリウム鋼板で被い、軒裏は木の無垢板と内部からの登り梁を敢えて突出させ、重みを醸し出すことに心がけた。内部として、スキップフロアーを組み込むことにより浮遊感を漂わせ、空間(場)の位置の変化が空間に強弱のリズム感を与え、次に出会う空間に期待感を持たせるものとした。 玄関からは足元に灯りを施し落ち着いた通り庭を彷彿させる廊下や和室へと接続する接地階−「暗」の空間−から階段を経て、中2階のリビング・ダイニングと和みの間、そしてそれを見下ろす廊下がつながる2階へ。この家の各階は、その開放度と地面からの床の高さの違いによって多様な空間を生み、様々な「場」における居心地を選択可能にしている。特に主たる生活の場となる中2階は、採光の窓、眺望の窓、通風の窓、換気の窓など、周辺の関係を考え配置。高さの違うそれぞれの空間(場)に、様々な光の手を差しのべてくれる。−「明」の空間−その上、勾配屋根を利用した高い空間の上部には、力強い梁の木組みや4m程にもおよぶ木で組み障子でほんのり包んだ「灯りの塔」、壁は真壁造ゆえの梁、柱を表面に表し、壁の漆喰と一体化させることによって空間として強烈な存在感を与えた。 また、RC造で中2階の下部に大容量の納戸と車庫、自転車置き場を配することによって地面からの高さを確保。万一の豪雪の際の安全をも合わせもつ。道行く人が前を通り過ぎる瞬間、伝統的な趣のある佇まいに心が和む。しかも高さ(空間の場)に変化を持たせることにより、前面の広場に開放感が生まれた。地域コミュニティーの場となり、通りのパティオとなることを願ってやまない。
(上島 ひとし)
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